第2話|モヤモヤの交差点

カンジョー通帳

「久しぶりに描いたんだな。」
その一言のあと、
部屋が少しだけ静かになった気がした。
俺はまだ、状況が飲み込めていない。
でも──
なんか、ちょっとワクワクしていた。
ずっと欲しかったのかもしれない。
自分の発想の外から来る、
意味のわからない現実。
気づけば、
狭い世界の中に勝手に閉じこもっていた。
同じような毎日を繰り返して、
それなりにやり過ごして。
楽ではあった。
でも、つまらなかった。
「……なんか、変わるかもな。」
小さくつぶやく。
スケッチブックに目を落とす。
途中の線。
まだ完成していない形。
──俺は、もっと自由に、自分の人生を描きたい。
そう思った瞬間、
別の感情がぶつかってきた。
でも、怖い。
何をしたいのか分からない。
本心も分からない。
変えたい。
でも、変えるのが怖い。
進みたい。
でも、止まっていたい。
頭の中で、いくつもの方向がぶつかる。
まるで──
どこに行けばいいか分からない、
交差点の真ん中に立ってるみたいだった。
どの道も気になる。
でも、どれを選んでも怖い。
「……ダサいな。」
思わず口に出る。
自分のことなのに、
どこか他人みたいに感じる。
誰だよ、こいつ。
なんでこんなに動けねぇんだよ。
頼れるなら、誰かに頼りたい。
でも、それもできない。
どうしたいのかも分からないくせに、
不安だけはちゃんとある。
ほんと、どうしようもない。
そのまま、しばらく動けなかった。
すると、横から声がした。
「じゃあさ。」
猫だった。
「止まったままでもいいけどよ、
 それ、一番ダルいぞ。」
軽く言う。
「全部決めなくていいだろ。
 一本でいいから、線引けよ。」
俺はスケッチブックを見る。
途中の線。
まだ終わっていない形。
交差点の真ん中にいるままでも、
手だけは動かせる。
「……少しだけ、な。」
小さくつぶやいて、
ペンを握った。

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