父のパソコンを借りる時間が増えていった。
参考書を開き、Illustratorを覚える。
スケッチブックの猫を取り込み、その上へ線や色を重ねる。
分からなかったことが、少しずつできるようになっていく。
パソコンに向かっている時間が、私は好きだった。

だから、自分のパソコンが欲しくなった。
誰かに借りなくても、やりたいと思ったときに使えるパソコン。
しかし、欲しいパソコンの金額を見ると、短時間の仕事だけでは足りなかった。
私は、ティッシュ配りの仕事も始めた。

たくさんの人が行き交う中で、ティッシュを差し出す。
受け取ってくれる人もいれば、こちらを見ずに通り過ぎる人もいた。
同じくらいの年齢の人が、仕事へ向かう姿も目に入った。
「いい歳をして、何をしているんだろう」
そう思う瞬間が、なかったわけではない。
それでも、嫌ではなかった。

働いた分だけ、自分のパソコンへ近づいていく。
昨日よりも今日。
今日よりも、次の給料日。
まだ手元にはないパソコンが、少しずつ現実になっていく。
それが、うれしかった。

ティッシュを差し出しながら、頭の中では、そのパソコンで何を作ろうかと考えていた。
Illustratorをもっと使ってみたい。
ほかのものも描けるかもしれない。
未来へ向かって進んでいる感じがした。
やがて私は、分割払いで自分のパソコンを購入した。

自分の部屋にパソコンが置かれた。
電源を入れる。
Illustratorを開く。
父のパソコンで作った猫のデータも移した。
画面に猫が現れる。
スケッチブックを開くと、紙の上の猫も画面を見ていた。
私はマウスを持ち、猫のデータを開いた。
何者かになったわけではない。
けれど、楽しかった。




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