『はじまりのスケッチ』第2話|次はどこに描く?

シリーズ1(内面)

猫は、スケッチブックの上でゆっくりと歩き始めた。
鉛筆で描いた線の上へ前足を置き、ページの端まで歩いていく。
そこで立ち止まると、隣の白いページを見た。 そして、私を振り返った。
「それで、次はどこに描く?」
「次?」
「ここには、もう描いたんだろ」
猫は前足で、自分のいるページを軽く叩いた。
私は隣の白いページを見る。
何かを始めたい気持ちはあった。 けれど、何をすればいいのかは分からなかった。
猫を描いたからといって、この先に何があるのかも分からない。
「分からない」
私が答えると、猫はそれ以上何も言わなかった。
ページの端に座り、白い紙を見ていた。
私もそのまま、しばらく猫を眺めていた。 やがてスケッチブックを閉じた。


それからも、ときどき猫の言葉を思い出した。
仕事をしているとき。 家へ帰る途中。 何もせずに横になっているとき。
次はどこに描く。
答えは出なかった。 ただ、頭の中から消えなかった。
しばらくして、猫をパソコンで描いてみたいと思った。
紙とは違う場所へ、この猫を移してみたかった。
私は父に声をかけた。
「パソコン、貸してもらっていい?」
父はパソコンを貸してくれた。


私は参考書を開き、父のパソコンでIllustratorを動かしてみた。
最初は、どこを触れば何が起きるのかも分からなかった。
参考書に書かれた手順を見ながら、線を引く。 図形を作る。 色をつける。
分からないところがあると、そこで手が止まった。
全部を理解してからでなければ、先へ進んではいけないような気がしていた。
そのとき、こう教えてもらった。
「最初から百パーセント、完璧に覚えなくてもいい。二十パーセントか三十パーセントできるようになったら、次へ進めばいい。まずは一通りできるようになることが大事だから」


私は、分からないところを残したまま、参考書の次のページへ進んだ。
線を引く。 形を作る。 色を変える。
完璧にはできなかった。 それでも、一通りの操作はできるようになった。
そのあと、スケッチブックに描いた猫をスマートフォンで撮った。
撮影した画像データを父のパソコンへ送り、Illustratorで開く。
画面に表示された猫の上へ、線を重ねていった。
頭の形。 耳の角度。 背中の丸み。 ひげの流れ。


輪郭ができると、今度は少しずつ色を重ねた。
思うような線にならないと、消して引き直した。
色が違うと感じれば、選び直した。
完璧ではなかった。 それでも、次へ進んだ。
気づくと、私はまた時間を忘れていた。
最後の色を入れ、画面から少し離れて見る。
そこに、猫がいた。


スケッチブックに描いた猫が、今度はパソコンの中にいる。
私は隣に置いたスケッチブックを開いた。
猫は、ページの端に座ったままだった。
「ここに描いてみた」
私が画面を指すと、猫は何も言わずにパソコンを見た。
それから、少しだけ尻尾を動かした。
「次はどこに描く?」
その問いへの最初の答えが、画面の中にできていた。

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