夜になると、でっさんの机には、使い道の分からない気持ちが残っていた。
仕事で言い返せなかった悔しさ。
誰かを見て、少しうらやましくなった気持ち。
新しいことを始めたいのに、身体が動かない焦り。
いらなが袋を開いた。
「捨てる?」
「いや、今日は置いとく」
でっさんは、古い通帳を一冊取り出した。
お金の代わりに、今日の気持ちを一行だけ書いた。
――疲れた。でも、まだ何かを始めたい。
かんがが横からのぞいた。
「原因と対策も記録しましょう。目標と行動予定も必要です」
「今日は一行でいいよ」
ばつが鼻を鳴らした。
「そんなものを書いて、何になるんだ」
「分からない」
でっさんは通帳を閉じた。
次の日は、腹が立ったことを書いた。
その次の日は、少し嬉しかったことを書いた。
言葉にならない日は、まるが丸を一つ描いた。
何も欲しくない日は、ほしいが空白のページに寝転がった。
ときどき、書いた言葉が詩のようになった。
ときどき、問いだけが残った。
――俺は、本当は何を感じたい?
答えは書けなかった。
それでも、その問いを捨てずに残した。
何週間かたった夜。
でっさんは、なんとなく最初のページから読み返した。
同じように迷っている日が、何度もあった。
同じものを欲しがっている日もあった。
そして、苦しいだけだと思っていた日々の間に、
小さく笑った日や、
誰かの言葉に救われた日や、
自分で一歩を選んだ日も残っていた。
「俺、何もしてなかったわけじゃないんだな」
ばつは黙ったまま、隣に座った。
ほしいの胸が、少しだけ光った。
通帳は、正しい道を教えてくれなかった。
気持ちを消してもくれなかった。
ただ、でっさんが忘れそうになった本音を、代わりに覚えていた。
でっさんは新しいページを開いた。
――今日は、何を作ろう。
今度の問いには、すぐ答えられそうだった。


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