でっさんと、遠くの笑い声

仕事から帰ったでっさんは、靴も脱がずに床へ座った。

大きな失敗をしたわけではない。
ただ、身体の電池がほとんど残っていなかった。

机では、かんがが新しい予定を整理していた。

「進む方向は、だいぶ見えてきました」

まるが紙に丸をつける。

ばつは壁にもたれたまま言った。

「それで、本当にやりたいのか?」

でっさんは答えられなかった。

やってみたい気持ちはある。
でも、その先にある毎日を想像すると、急に色が薄くなる。

そのとき、開いた窓から遠くの笑い声が聞こえた。

何人かが話し、誰かの一言で笑っている。

ほしいが窓へ駆け寄った。

「俺、あっちに行きたい」

「どこですか?」

かんがが尋ねた。

「分かんない」

「何をしている場所ですか?」

「それも分かんない。でも、楽しそう」

でっさんも窓の外を見た。

欲しいのは、決まった名前の仕事ではないのかもしれない。

人と出会うこと。
笑うこと。
何かを作ること。
今日も少し生きたと思えること。

これから入ろうとしている場所に、それがあるかは分からない。

ばつが言った。

「外から見て分からないなら、一度入ってみればいい」

「ばつが、そんなこと言うんだ」

「違ったら出ればいいだろ」

でっさんは、少し笑った。

身体は疲れていた。
やりたいかどうかも、まだ分からない。

それでも、以前ほど苦しくなかった。

正しい答えを見つけたからではない。

試して、違ったら戻ってもいいと思えたからだった。

遠くの笑い声は、もう消えていた。

けれど、その響きだけは胸に残っていた。

それは答えではなく、

でっさんが生きていきたい方向を知らせる、
名前のない音だった。

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