シリーズ5|世界拡張局―「自分には関係ない」を見つける物語 ―|第8話|怖かった人

カンジョー通帳

この記事の要約

  • 未調査区域への出発前日、地下倉庫で古い手帳が見つかった。
  • 手帳には、出発前の迷いや怖さだけが静かに記されていた。
  • 手帳の持ち主は分からなかったが、多くの調査員が同じ気持ちを抱えていたことが伝わってきた。
  • 怖さは特別なものではなく、出発前の記録として受け継がれていた。
  • でっさんは怖さを抱えたまま歩き出すことを受け入れた。

🧭 判断ログ

判断:怖さは自分だけのものではなく、過去の調査員たちも抱えたまま出発していたと受け止めた
場面:地下倉庫で無記名の手帳と古い調査道具が見つかった場面
やり方:手帳の内容と残されていた道具を確認し、過去の調査員たちの記録を読み取った
変化:怖さをなくそうとするのではなく、そのまま持って出発することを受け入れられるようになった


物語

未調査区域への出発を翌日に控えた朝、世界拡張局では最後の準備が進められていた。

地図を確認する局員。

装備を点検する局員。

報告書をまとめる局員。

廊下には足音が絶えず響いていたが、必要以上の話し声はなかった。

でっさんは地下倉庫から古い調査道具を運び出していた。

木箱を持ち上げた瞬間、箱の底が抜けた。

中に入っていた道具が床へ散らばる。

古い地図。

革の手袋。

折れたコンパス。

色あせた名札。

どれも長い年月が過ぎたことを示していた。

でっさんは慌てて拾い集める。

そのとき、一冊の古い手帳が床を滑り、足元まで転がった。

表紙には名前がない。

擦り切れた革だけが残っていた。

開いてみると、調査記録ではなかった。

一日目。

眠れない。

二日目。

本当に行くのか。

三日目。

帰りたい。

四日目。

まだ出発していない。

どのページも短い言葉だけだった。

正式な報告ではない。

誰かが自分だけのために書き残した記録だった。

よろこが隣でページをめくる。

最後のページには、一行だけ残っていた。

「それでも行ってみる。」

そこで手帳は終わっていた。

その後どうなったのかは書かれていない。

成功も失敗も、帰ってきた記録も残されていなかった。

倉庫には静かな時間が流れた。

ばつが小さくつぶやく。

「怖かったんだな。」

その言葉を否定する局員はいなかった。

しばらくして管理担当者が古い名簿を持って現れた。

手帳と名簿を照らし合わせたが、持ち主は分からなかった。

名前は残っていない。

管理担当者は床へ散らばった道具を見渡した。

折れたコンパス。

擦り切れた手袋。

泥が乾いた靴。

どれも年代が違っていた。

管理担当者は静かに言った。

「怖かった人は、一人ではなかったのかもしれない。」

この場所に残っているのは、一人分の記録ではなく、何人もの調査員が置いていった痕跡だった。

誰か一人だけが特別に勇気を出したわけではない。

誰か一人だけが怖かったわけでもない。

それぞれが出発の前に迷い、その一部がここへ残っていた。

夕方、でっさんは出発準備を終えて掲示板の前へ立った。

未調査区域。

出発予定は明日。

紙に書かれた内容は昨日と変わらない。

変わっていたのは、でっさんの受け止め方だった。

怖さは残っている。

それでも、過去にここから出発した人たちも同じように迷い、怖さを抱えたまま歩き出していたことを知った。

帰る前、でっさんはもう一度地下倉庫へ立ち寄った。

古い手帳は展示ケースへ納められ、その隣には折れたコンパスも並べられていた。

説明には一行だけ書かれていた。

「怖かった人たちの記録」

でっさんは展示ケースの前で立ち止まり、小さく頭を下げた。

翌朝、自分もその人たちと同じ出発地点へ立つことになる。

※この文章は、あくまで私の主観による文章です。


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