気づくと、場所が変わっていた。
さっきまでの部屋じゃない。
足元は、ゆるい坂になっている。
乾いた土と、少しだけ草が生えていた。
上の方に、平らな場所が見える。
「……なんだここ。」
振り返る。
誰もいない。
いや──
少し先に、立っていた。
さっきのやつだ。
背筋はまっすぐで、
無駄な動きがない。
風が吹いているのに、
そいつだけ、あまり揺れない。
「来たか。」
「……どこだよここ。」
「思考の丘。」
あっさり言う。
「感情のあとに、整理する場所。」
言い切ると、
それ以上は説明しない。
少しだけイラっとする。
「……勝手に連れてくんなよ。」
「連れてきてない。」
間を置く。
「お前が来た。」
淡々としている。
言い返そうとして、やめた。
たしかに、
さっきまで頭の中がぐちゃぐちゃだった。
何が起きて、
何を感じて、
何を考えてるのか。
全部混ざってた。
「……で?」
そいつは、少しだけ視線を下げた。
坂の下。
ぼんやりと、何かが動いている。
黒い塊みたいなものが、
ぐちゃぐちゃと渦を巻いていた。
「……なんだあれ。」
「さっきのやつだ。」
短く言う。
「感情。」
しばらく見ていると、
少しだけ分かった。
イラつき。
だるさ。
自己嫌悪。
全部、混ざってる。
「……気持ち悪いな。」
「そのままだからな。」
そいつは、坂の上に座った。
「上に来い。」
仕方なく、登る。
少し息が上がる。
上に着くと、
さっきの黒い塊が、少しだけ遠くなった。
「……で、何すんだよ。」
そいつは、スケッチブックを見た。
「分ける。」
それだけ言う。
「起きたことと、
感じたことと、
考えてること。」
間。
「全部、混ざってる。」
たしかにそうだった。
「……どうやって。」
「見るだけでいい。」
簡単に言う。
「近いと分からない。
離れると見える。」
下を見る。
黒い塊は、まだ動いてる。
でもさっきより、
少しだけ形が見える気がした。
「……」
しばらく黙る。
風の音だけがする。
「……ああ。」
小さく声が出た。
「これ、イラついてんのか。」
「そうだな。」
即答だった。
「で、その上に、自己嫌悪が乗ってる。」
また即答。
「……はあ。」
なんか、抜けた。
完全じゃない。
でも、さっきよりはマシだった。
「……で?」
そいつは立ち上がった。
「決めるのは、まだいい。」
こっちを見る。
「まず、分けろ。」
それだけ言って、
先に歩き出した。
思考の丘|かんがとのシーン
カンジョー通帳
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