『はじまりのスケッチ』
第7話|始める前に
まるは、未完成のまま残った。
それでも、カンジョー箱について考えることは続けた。
自分の中にあるものは、理想だけではない。
影。
考える力。
願い。
拒む気持ち。
喜び。
怒り。
悲しみ。
楽しさ。
私は、それぞれに名前を付けていった。
まる。
ばつ。
かんが。
ほしい。
いらな。
よろこ。
いかり。
かなし。
たのし。
でっさんという名前も考えた。
けれど、どのキャラクターも、姿や役割はまだ決まりきっていなかった。
*
私は新しいファイルを開き、キャラクターの設定を書き始めた。
しばらくすると、先に物語を作ったほうがいいような気がした。
設定のファイルを閉じ、物語の構成を考える。
すると今度は、カンジョー箱が何なのかを先に決める必要があると思った。
感情を扱う場所なのか。
自分の経験を残す場所なのか。
読むための物語なのか。
何かを選ぶための道具なのか。
*
説明を書いているうちに、Webサイトの構成も気になった。
何を最初に見せるのか。
どこから読んでもらうのか。
物語と、それ以外のものをどう分けるのか。
私はサイトの構成を書き始めた。
その途中で、続けるためには収益のことも考えたほうがいいと思った。
無料で公開するのか。
何かを商品にするのか。
誰に向けて作るのか。
私は、また別のファイルを開いた。
*
一つを考えると、その前に決めなければならないことが見つかった。
それを考えると、さらに別のことが気になった。
ファイルは増えていった。
キャラクター設定。
物語案。
サイト構成。
商品案。
カンジョー箱の説明。
どれも無駄ではなかった。
私は何もしていなかったわけではない。
文章を書いた。
画像も試した。
Webページも作った。
*
それでも、一つの物語を始めようとすると、手が止まった。
キャラクターが決まってから。
カンジョー箱の目的が固まってから。
全体の仕組みが見えてから。
私は、始めるための準備を増やし続けた。
*
ある日、物語を書くための新しいファイルを開いた。
白い画面の上で、入力するための線が点滅していた。
最初の一行を書こうとした。
けれど、また別の考えが浮かんだ。
私は何も書かないまま、ファイルを保存した。
その日も、カンジョー箱についてたくさん考えた。
ただ、物語はまだ始まっていなかった。


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