『はじまりのスケッチ』
第6話|まず、箱を作った

シリーズ1(内面)

実家を出てから、毎月の生活費を自分で支払うようになった。
大きな資金を使わないこと。
在庫を抱えないこと。
維持費を抑えながら続けられること。
そんなことを考えながら、新しい方法を探していた。
もう一度、何かを作りたい気持ちも残っていた。


約一年半前、私はChatGPTを使い始めた。
自分が考えていることを入力すると、いくつもの案が返ってきた。
使いたいと思うものもあれば、自分には合わないものもあった。
私は、その中から必要なものを選んだ。
文章を書き直す。
別々の案を組み合わせる。
違うと感じたものは使わない。
考えがまとまると、画像を作り、Webページへ置いてみた。
少しずつ、パソコンの中に新しいものが増えていった。


けれど、作っているものは一つにまとまっていなかった。
楽しいこと。
怖かったこと。
怒ったこと。
悲しかったこと。
決められずに迷っていること。
私は、いろいろな感情を、なかったことにせず箱へ入れてみることにした。
楽しい気持ちだけではない。
恐れも、怒りも、悲しみも、迷いも入れた。
それを「全感情資産化計画」と名づけた。


もっとも、作ったもののすべてが、感情だけを扱っていたわけではない。
考えたことや、これまでの経験。
失敗したことや、まだ形になっていない願いも混ざっていた。
それでも、全部を入れておける大きな箱を、先に作ることにした。
名前は「カンジョー箱」。


箱を作ったあと、私は昔描いた猫のデータを開いた。
スケッチブックから、父のパソコンへ移した猫。
自分のパソコンを買ってからも、ずっと残していた猫だった。
私はその猫を、新しいキャラクターとして描き直そうとした。
名前は「まる」。
自分の理想を表す存在にしようと思った。


けれど、どんな姿にすればいいのか決まらなかった。
線を変える。
色を変える。
描き直しては、また戻す。
画面の中の猫は、どの姿にも決まりきらないまま、こちらを見ていた。
「お前の理想は、もう決まってるのか?」
私は答えられなかった。
まるは、未完成のまま残った。

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