でっさんは、古い地図を見ていた。
以前、進もうか迷った道に、丸がついている。
「あっちを選んでいれば、今ごろ違ったのかな」
自分で選んだ今の道は、思ったより歩きにくかった。 進んでいるつもりでも、同じ場所を回っている気がする。
隣から、かなしが地図をのぞいた。
「最近、よく見てるね」
「選び間違えたのかもしれない」
*
「どうして、その道に行かなかったの?」
かなしが聞いた。
「自分で作りたいものがあった。それを続けられる道を選びたかった」
でっさんは、地図の丸を指でなぞった。
「あっちにも、嫌なところはあったんだよ。でも今は、あっちのほうがよかった気がする」
「嫌だったところは、なくなったの?」
「……行ってないから、わからない」
でっさんは、指を離した。
*
かなしは、白い紙を二枚持ってきた。
一枚に『あのとき』。 もう一枚に『いま』と書いた。
「あの道に行かなかった理由、こっちに書いてみて」
でっさんは、思い出しながら書いた。
作りたいものがあったこと。 自由に使える時間が欲しかったこと。 気になることが、いくつもあったこと。
「じゃあ、今は何が欲しい?」
でっさんは、もう一枚に書いた。
安心して暮らしたい。 作ることも続けたい。 もう少し、先の見通しが欲しい。
二枚を並べて、しばらく見た。
「……今ほしいものを、あのときの自分に選ばせようとしてたのか」
*
後悔が、なくなったわけではなかった。
それでも、でっさんは古い地図を畳んだ。
「今なら、別の選び方も考えられるな」
かなしは、二枚の紙をそろえようとした。 けれど、大きさが違って、うまく重ならなかった。
でっさんが笑った。
「待って。それ、一枚にしてみたい」
新しい紙を出し、左右に線を引いた。
『そのとき大切だったこと』 『今、大切にしたいこと』
下には、小さく書いた。
『これから確かめること』
*
書いてみると、最後の欄だけ空いた。
「ここが一番難しいな」
でっさんは鉛筆を置いた。
「この紙、使いにくい?」
かなしが聞いた。
「少し。何を書けばいいか迷う」
でっさんは、最後の問いを書き直した。
『次に選ぶ前に、何を知りたい?』
今度は、一つ書けた。
でっさんは紙を見直した。
「俺みたいに、前の選択をずっと考えてる人、ほかにもいるかな」
「いるかもしれないね」
「じゃあ、まず俺が使ってみる。使えたら、誰かにも試してもらおう」
困ったことが、一つの物語になった。 物語から、一枚の試作品ができた。
でっさんは、その紙を机の真ん中に置いた。
「困った。だからこそ、これが欲しいってわかったんだな」
*

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