名前から先に出来たカンジョー通帳

シリーズ7(事業構築ログ)

でっさんは、通帳を開いていた。
書こうとして、手が止まる。
向かいに座ったばつが、 表紙を見た。
「それ、何なんだ?」
「カンジョー通帳」
「名前じゃなくて。何に使うんだ?」
「気持ちを残したり、物語を考えたり」
ばつは、机にあるノートを指した。
「こっちでもできるだろ」
でっさんは二冊を見た。
「……できるな」
まるが、隣の椅子を引いた。
「名前をつけたときは、どう考えてたの?」


でっさんは、古いメモを探した。
最初に書いてあったのは、 「全感情資産化計画」。
うれしかったことだけでなく、 腹が立ったことや、失敗も、 絵や文章の材料にできたらと思っていた。
「でも、ちょっと堅かったんだよ」
その下には、いくつもの名前。
一つだけ、丸で囲んであった。
カンジョー ツーチョー。
「これ、声に出したら気に入った」
でっさんは、もう一度読んだ。
「カンジョー、ツーチョー」
まるが、丸で囲んだ字を見た。
「使い方より、名前が先だったんだね」
「うん。語呂がよかった」
ばつはメモを読み、 何も言わずに机へ戻した。


かんがが、二冊を並べ直した。
銀行の通帳。 カンジョー通帳。
「銀行の通帳には、お金の出入りが残る。こっちには、何が残る?」
でっさんは、前のページを開いた。
悔しかった。 言いたいことが言えなかった。 それでも、作ってみたい。
ばつが読んだ。
「その時にどんな気持ちだったかは分かるな」
でっさんも、読み返した。
何があった日なのか、 少しずつ思い出してきた。
かんがは、次のページを見た。
仲間と何かを完成させて、笑いたい。 自分の商品が売れて、喜びたい。
「こっちは、まだ起きていない?」
「うん。こういう気持ちを感じたいと思って」
かんがは、紙に線を引いた。
「じゃあ、過去の記録と、未来の希望は分けて——」
でっさんは、その紙に手を置いた。
「まだ分けなくていい。今は、両方入れてみたい」
かんがは少し考えて、 引いた線の横に小さく「仮」と書いた。


ほしいが、未来のページを引き寄せた。
「売れたところまで、物語にしよう」
「まだ商品も決まってないぞ」
「だから想像するんだよ。買った人が喜んで、俺たちも喜ぶ。そのあと、もっと作りたくなる」
でっさんは、その場面を思い浮かべた。
作ったものを渡す。 相手が手に取る。 自分は、反応を待っている。
うれしそうな顔を見てみたかった。
「それ、話にしてみようか」
ばつが口を開いた。
「売れなかった方も、俺は気になる」
ほしいが顔をしかめる。
「今、いいところなのに」
「そっちを考えたら、何を売りたいのか分かるかもしれないだろ」
でっさんは、二枚の紙を出した。
売れた話。 売れなかった話。
同じ始まりから、 違う続きを考えてみたくなった。


机が、紙で埋まってきた。
かんがの分類案。 ほしいが増やした、やってみたいこと。 ばつが指摘した、気になるところ。
いらなが、作品の入ったカンジョー箱を持ってきた。
机の紙を、一枚ずつ拾う。
「これは残す?」
「残す」
「これは?」
でっさんは読んだ。
通帳の意味を、一文で決めようとした紙だった。 何度も消して、書き直してある。
「それは、今日は使わない」
いらなは、でっさんの前に置かず、 横の空いた場所へよけた。
出来た物語は、箱へ。 考え途中の紙は、ひとまとめに。
通帳と、名前のメモが机に残った。
でっさんは、少し息をついた。
「決めようとしてたら、書きたい話まで止まってたな」
まるが、二枚の原稿を寄せた。
「今、続きを作りたいのはどっち?」
でっさんは、売れなかった方を手に取った。


スマホでChatGPTを開いた。
名前は、語呂から出来たこと。 通帳なのに、ノートのように使っていること。
過去の気持ちも、 これから感じたい気持ちも入れている。
別の選択をした話や、 自分を離れたところから見る話も、 試してみたい。
思いつくままに伝えた。
「この流れを、物語にして」
返ってきた話を読む。
途中で、でっさんは手を止めた。
通帳の役割が、 きれいに決まりすぎていた。
「そこは、まだ決めなくていい」
そう伝えて、読み直す。
ばつが隣からのぞいた。
「通帳の意味、結局分からないままだな」
「うん。でも、この話は作れそうだ」
ほしいが、売れた方の紙を持ってきた。
「こっちも、あとで作ろう」
でっさんは、それも手元に残した。
いらなが片づけた机には、 次の一枚を広げる場所があった。
通帳は、まだ開いていた。

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