この記事の要約
- 昨日は工事が進み、柱も一本立っていた。
- 今日も同じように進むと思っていた。
- 体は動くのに、一個目のレンガが持ち上がらなかった。
- 街には昨日まで積み上げた仕事が残っていた。
- 何も進まなかった日でも、昨日の工事は消えていなかった。
物語
朝、でっさんは工事現場の門を開けた。
昨日のまま、資材はきれいに積まれている。鉄骨は途中まで組まれ、足場の影が舗装されていない地面へ細く伸びていた。
昨日は、あそこまで運べた。
木箱も二つ減った。
新しい柱も一本立った。
帰る頃には、「今日は進んだな」と自然に思えた。
だから今日も、同じように始まると思っていた。
作業手袋をはめる。
荷台に手を掛ける。
その横で、かなしは静かに立ち止まっていた。
でっさんが前へ出ようとすると、かなしも一歩前へ出る。
体は動く。
力も残っている。
それでも、その先だけが進まない。
風が資材を覆う青いシートを小さく鳴らした。
遠くでは別の区画で工事が続いている。金属を打つ乾いた音だけが規則正しく街へ響いていた。
でっさんは一歩だけ進み、積まれたレンガを見つめる。
持てないわけじゃない。
重すぎるわけでもない。
ただ、その一個目が持ち上がらない。
昨日は何も考えずに何十個も運んだはずだった。
少し離れた場所で、かんがが現場を見渡していた。
木箱は昨日より二つ減っている。
柱は一本立っている。
鉄骨も昨日組み上げた場所で止まっている。
昨日進めた工事は、そのまま残っていた。
事実は変わっていない。
けれど、かなしはレンガの前から動かなかった。
でっさんは門の外へ出て、街を少し歩く。
工事中の建物ばかり並ぶ通りには、まだ名前の付いていない道が続いていた。
途中まで作られた橋。
骨組みだけの時計塔。
屋根だけ完成した小さな家。
どれも昨日までのでっさんが残した仕事だった。
なくなってはいない。
止まっているだけだった。
そう確認しても、かなしは現場へ戻ろうとしない。
昼になり、ベンチへ座る。
弁当の蓋を開けたが、半分ほど食べたところで箸が止まる。
昨日は昼休みも惜しかった。
早く午後を始めたかった。
今日は時間だけが先へ進んでいく。
夕方になり、空が少し赤く染まる。
結局、荷台の位置は朝と変わらなかった。
レンガも。
工具も。
工事予定の札も。
でっさんは手袋を外し、軽く土を払う。
何も進まなかった一日だった。
門を閉める前、もう一度だけ振り返る。
昨日立てた柱は、今日も同じ場所へ立っていた。
その柱を見つめたまま、かんがは何も言わない。
昨日の工事は、今日できなかったことで消えたりはしていない。
門を閉める音が、小さく街へ響く。
かなしは門の外で立ち止まったままだった。
明日また門を開けるかどうかは、まだ誰も決めていなかった。
※この文章は、あくまで私の主観による文章です。
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