でっさんは、カンジョー通帳を開いていた。
やってみたいことが、いくつも書いてある。
昨日は面白そうだった一行が、今朝は宿題のように見えた。
何から始めるか。 このままでいいのか。 また同じ一日になるんじゃないか。
ページを戻り、また進む。
「あー、もう」
でっさんは、ペンを置いた。
まるが隣に座った。
「どうしました?」
「変えたいんだけどさ。考えてるうちに、何もかも面倒になってきた」
まるは通帳をのぞかず、机の端に自分のカップを置いた。
でっさんも、一口飲んだ。
まだ温かかった。
「……全部、つまらないわけじゃないんだよな」
昨日、たのしと笑ったことを思い出した。
作った絵を、何度も見返したことも。
「それなりに楽しいから、続いてるんだと思う」
「うん」
「でも、変えていきたい。それも本当」
でっさんは、開いたページを手で押さえた。
「一気には、無理だな」
扉の向こうから、ばつが顔を出した。
「先に行くぞ」
「ああ。今、行く」
でっさんはペンを持ち直した。
何か、決めてから出かけようと思った。
けれど、同じ問いがまた浮かんできた。
これでいいのか。 もっと何か、できるんじゃないか。
でっさんは目をこすった。
そして、ペンにふたをした。
「この続きは、またにする」
通帳を閉じ、鞄に入れた。
その日は、目の前の用事を一つずつ進めた。
途中で先のことが気になると、でっさんは手を止めた。
考え始めそうになって、息をついた。
今は、これを終えよう。
ひと区切りついたところで、水を飲んだ。
窓から入る風が気持ちよかった。
たのしが何か言って、ばつが吹き出した。
でっさんも笑った。
笑ってから、少し驚いた。
今朝、あんなに面倒だった一日にも、こういう時間はあった。
帰るころには、疲れていた。
机に座ると、通帳が目に入った。
朝の続きを考えることもできた。
でっさんは、今日の欄に短く書いた。
《先のことは決めなかった》 《今日、必要なことは終えた》 《途中で、笑った》
明日の予定を増やしかけて、手を止めた。
今日は、ここまでにしたかった。
まるが部屋の灯りを落としに来た。
「通帳、もう閉じます?」
「うん。今日は寝る」
でっさんは鞄を置き、椅子から立った。
やってみたいことは、まだ残っている。
その中のどれを選ぶかも、決まっていない。
机の上に閉じた通帳を残して、でっさんは部屋を出た。
扉を閉める前に振り返った。
「続き、楽しみにできるときに開こう」
小さな灯りを消した。


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