「売れた日の話を作りたい」
でっさんが言うと、 ほしいが椅子を寄せた。
「いっぱい売れた日にしよう」
「まず、一冊でもいい」
机には、公開した物語と絵が並んでいた。
これをまとめて、 いつか商品にしてみたい。
でも、何をどう売るかは、まだ考え途中だった。
ばつが聞いた。
「売れてないのに、売れた話を作るのか?」
「うん。そのとき、俺が何をうれしいと思うのか、想像してみたい」
まるが、空いている紙を置いた。
「どんな場面から始めようか」
でっさんは、少し考えた。
「買ってくれた人に、お礼を言ってるところ」

でっさんは、スマホでChatGPTを開いた。
物語と絵をまとめた本を作ったこと。 その本が、初めて一冊売れたこと。
まだ実際には起きていないけれど、 その場面を物語にしてほしいと伝えた。
返ってきた話では、 でっさんが何度も販売画面を見ていた。
一冊、売れている。
「……本当に買った人がいる」
そのあと、 お礼の文章を何度も書き直していた。
でっさんは、読んで笑った。
「これは、やりそうだな」
ほしいが、続きをのぞく。
「もっと喜べばいいのに」
「喜んでるよ。たぶん、信じられなくて何回も見る」
まるが聞いた。
「何が、一番うれしそう?」
でっさんは、画面を読み返した。
「俺が作ったものを、欲しいと思った人がいたこと」

ほしいは、その先も見たがった。
「次は十冊。もっと売れたら、仲間も増やそう」
でっさんにも、見てみたい景色があった。
誰かと作品を作る。 作業の途中で言い合う。 完成したら、飯を食いに行く。
知らない場所へ行って、 買ってくれた人と話す。
「その話も、作ってみたいな」
かんがが、紙を引き寄せた。
「私は、作る側から考えたい。十冊売れても、毎回寝る時間がなくなるなら続かない」
ばつが言った。
「買う側からも見てみろよ。知らない人の本を、何で買うんだ?」
でっさんは、スマホに伝えた。
「作る俺、買う人、一緒に作る仲間。それぞれの立場で、この本をどう見るか考えて」
同じ本について、 違う意見が返ってきた。
作る側は、全部入れたい。
買う側は、 どんな話が読めるのか、先に知りたい。
一緒に作る側は、 何を頼まれるのか、はっきりしてほしい。
でっさんは、手を止めた。
「俺の頭の中だけじゃ、分からなかったな」
まるが、画面を指した。
「実際の人の返事ではないけど、確かめたいことは増えたね」

「じゃあ、話してみよう」
でっさんは、二脚の椅子を向かい合わせた。
ほしいが、すぐに座る。
ばつは、背もたれに寄りかかった。
「ほしいは作る側。ばつは、まだ買う気がない人」
「そのままでいいな」
ばつが言った。
ほしいが、一冊の見本を差し出す。
「物語も絵もいっぱい入ってる」
「どんな物語だ?」
「カンジョー箱の物語」
「それを知らないから、聞いてる」
ほしいは、表紙を見た。
少し考えて、言い直す。
「作りたいのに、考えすぎて始められない男の話。こいつらと話しながら、一つずつ作品を作っていく」
ばつが、本を開いた。
「それなら、少し分かる」
でっさんは、やり取りをメモした。
「今の説明、最初にあった方がいいな」
ほしいが、別のページを見せる。
「ここの絵も見て」
「絵は好きだ。でも、文字が小さい」
「そこまで言うのか」
「買う前に見る役だろ」
でっさんは、二人の間から本をのぞいた。
直したいところが、 具体的に見えてきた。

話しているうちに、 机が紙で埋まっていた。
十冊売れた話。 仲間と作った話。 買う人から見た意見。
いらなが、一枚ずつ拾う。
「今日、使うのはどれ?」
でっさんは、 最初の一冊が売れた話を手に取った。
「これ。それと、本の説明」
ほしいが、十冊の紙を押さえた。
「こっちも残して」
「残すよ。今日は、横に置いておくね」
いらなが机を空けると、 まるが飲み物を持ってきた。
でっさんは、カップを持った。
「一冊売れたら、たぶん、こんなふうに座ってるんだろうな」
「俺は、もっと騒ぐ」
ほしいが言った。
「俺は、次の本も読む」
ばつが言う。
でっさんは、ばつを見た。
「買ってくれるのか?」
「今は、そういう場面を想像してるんだろ」
でっさんは笑って、カップを少し上げた。
みんなのカップが、机の中央で触れた。
まだ一冊も売っていない。
それでも、その日のうれしさを、 少し想像できた。

飲み終えると、 かんがが見本の本を開いた。
「最初に読める物語を、一つ選ぼう」
ほしいは、入れたい作品を三つ並べた。
ばつは、さっきの説明を読み直している。
いらなが、今日使わない紙をまとめた。
でっさんは、ChatGPTに伝えた。
「さっきの対談を使って、この本の紹介文を作って」
返ってきた文章を読む。
「ここ、まだ出来てないことまで書いてるな」
その部分は、直してもらった。
未来の話では、 もっと大きな本になっていた。
今、机にあるのは、 数枚の見本だった。
でっさんは、そのうちの一枚を選んだ。
「まず、これを最後まで読める形にしよう」
まるが、隣へ座る。
ばつが、文字の小さかったページを開いた。
ほしいは、表紙に使いたい絵を持ってきた。
でっさんは、もう一度スマホを開いた。
売れた日の話は、残してある。
その日を想像したら、 今の見本を、もう少し作ってみたくなっていた。




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