でっさんは、自分の人生を、ハッピーエンドの映画として捉えることにした。
主人公は、自分だ。
自分で仕事を作り、好きな場所で暮らす。
新しいことを次々と試し、事業を育てていく。
身体を大切にし、大切な人たちと笑って過ごす。
その映画を思い浮かべると、少しニヤニヤした。
けれど、今の机に目を戻すと、書きかけのメモが並んでいた。

自分の仕事を作りたい。
そう思って、今日も考えていた。
これならできるかもしれない。
こちらのほうが、自分には合っているかもしれない。
思いついたことを書き、調べ、組み立てる。
そのうち、気になるところが出てくる。
「本当に、これでいいのかな」
誰かがお金を払うだろうか。
自分がやる意味はあるだろうか。
もっと良いやり方があるのではないか。
もう一度、考え直す。
さっきまで進めそうだった案が、急に頼りなく見えてきた。
別の案を開く。
そちらにも、気になるところがある。
気づけば、時間が経っていた。
何かに取り組んでいた。
でも、誰かに見せられるものは、思っていたほど増えていなかった。

映画の画面には、そんなでっさんも映っていた。
メモを開く。
文章を直す。
少し考える。
また、最初に戻る。
客席のでっさんは、その様子を眺めた。
「ああ、今、ここなんだな」
画面の中の自分は、真剣だった。
自分の仕事を作りたいから、考えている。
今度こそ形にしたいから、迷っている。
ただ、確かめる相手が、ずっと自分だけだった。
自分で案を出し、自分で疑問を見つける。
その疑問に答えようとして、また構想を練る。
答えが出るまで、外に出せなかった。
でっさんは、画面を少し先へ進めてみた。

知らない街で、朝を迎えていた。
窓を開けると、通りから料理の匂いがした。
屋台の店主が、大きな鍋をかき混ぜている。
でっさんはパソコンを開いた。
届いた注文。
使ってくれた相手からの感想。
任せている仕事の報告。
自分で作った幾つかの事業が、今日も動いていた。
「よし。今日は、これを試そう」
声に張りがあった。
机には、新しい試作品がある。
まだ直したいところはあった。
それでも、自分で使い、一か所直すと、試してもらう相手に見せた。
返ってくる反応を想像して、少し笑った。
今のでっさんは、画面を見つめた。
あの自分も、完成する前に見せている。

未来のでっさんにも、分からないことはあった。
出した商品が、売れない。
説明を変えても、反応がない。
「これは、違ったか」
腕を組み、少し考える。
けれど、そこから全部の構想をやり直す前に、使ってくれた相手の話を聞いた。
「どこが使いにくかった?」
返事を聞いて、試作品を開く。
自分では大事だと思っていた部分が、ほとんど使われていなかった。
おまけのつもりで作ったところが、喜ばれていた。
「そっちなのか」
でっさんは笑った。
考えているだけでは、これは分からなかった。
次に直す場所が、一つ決まった。

去年とは、違う毎日になっていた。
一つ目の仕事を育てながら、二つ目を試した。
繰り返す作業は手順を残し、一部を任せた。
空いた時間で、また新しいものを作った。
続けた事業もあれば、やめたものもあった。
うまくいかなかった経験は、次に試すときに使えた。
前より小さく作れた。
お金をかける前に、確かめられた。
分からないところを、具体的に聞けた。
かつて準備に時間をかけすぎたことも、今は覚えていた。
一覧表を作りかけて、手を止める。
「まず、一つ出してからでいいか」
必要になったところだけ整えて、制作に戻った。
客席のでっさんは、その場面で笑った。
自分の癖まで、ちゃんと覚えている主人公だった。

でっさんは、自分を信じていた。
迷わなくなったわけではなかった。
疲れた日には、判断がつかないこともある。
知らない分野では、手が止まることもある。
そんな日は、確かめることを一つにした。
自分で使ってみる。
一人に見せる。
一か所だけ変える。
返事が来たら、また考える。
結果が出ない日にも、自分への信頼は残っていた。
今の方法が合わなければ、変えられる。
知らないことは、学べる。
必要なら、助けも借りられる。
でっさんは、その自分と一緒に、次の仕事を作っていた。

学ぶことは、外の世界につながっていた。
気になったものを見つける。
調べる。
試す。
形にして出す。
すると、誰かの言葉が返ってくる。
そこから、次に知りたいことが生まれる。
でっさんには、大きな螺旋階段が見えた。
一段進むたびに、景色が変わる。
学んだことが作品になる。
経験したことが仕事に使える。
自分の発信が、遠くの相手に届く。
返事を読んで、また世界が広がる。
次の段へ上がるときには、手元に、新しく分かったことがあった。

今日も、思い切り自分が活躍した。
商品を直した。
新しい企画を外へ出した。
届いた相談に、自分の経験を使って応えた。
そのあと、近所のジムで身体を動かした。
汗をかいて外へ出ると、街の音がした。
知らない街だった場所に、今は自分の毎日がある。
でっさんは、大きく伸びをした。
腹が減っていた。
今日は、まだ入ったことのない店へ行ってみよう。
角を曲がると、気になる看板があった。
店の中から笑い声が聞こえた。
でっさんは、扉を開けた。

映画は、さらに先へ進んだ。
自分の本が届いた日。
新しい事業から、最初の注文が入った朝。
初めての場所で、小さな集まりを開いた夜。
皆で食べ、飲み、それぞれの話をした。
でっさんも、その中で笑っていた。
仕事も、身体も、大切な人たちとの時間も、自分の暮らしの中にあった。
明日の予定を思い出して、口元が緩む。
次に試すことがある。
会いたい相手がいる。
まだ行ったことのない場所もある。
この毎日の続きを、でっさん自身が楽しみにしていた。

映画の終わりに近い場面で、未来のでっさんは、古いメモを開いた。
自分の仕事を作る。
その言葉の下に、幾つもの案が並んでいた。
直した跡。
考え直した跡。
途中で止まった文章。
「あのころ、ずいぶん迷ってたな」
ページをめくりながら、でっさんは思い出した。
本当にこれでいいのかと考えて、動けなかった日があった。
それでも、ある日、考えていたものを一つ、試せる形にした。
小さかった。
まだ気になるところもあった。
それを使ってもらったところから、次の場面が始まった。
未来のでっさんは、そのページをしばらく見ていた。
あの日の自分に、続きを見せてやりたかった。

今のでっさんは、机に向き直った。
書きかけのメモがある。
まだ、誰にも見せていないものがある。
「本当に、これでいいのかな」
いつもの言葉が浮かんだ。
でっさんは、少し考えた。
今はまだ、答えが分からない。
なら、どこを試せば、一つ分かるだろう。
作りかけのものを開く。
全部を完成させようとすると、また遠くなる。
今日、使ってみられる部分を一つ選んだ。
動かす。
直す。
もう一度、使う。
さっきより、形が見えた。
映画の中で、主人公がようやく手を動かし始めた。
でっさんは、その場面を内側から眺めて、少し笑った。
ここから何が返ってくるのだろう。
それを知るために、次は外へ出してみようと思った。




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