カンジョー箱 ファンタジーシリーズ

第1話|カンジョー薬局

シリーズ4(ファンタジー)

世界のどこかに、
気持ちを小瓶にしまう薬局がある。

うれしくて眠れない夜も。
理由もなく寂しい朝も。

その店では、調合の材料になる。

店の名前は「カンジョー薬局」。

看板には、手描きの文字。

「いらっしゃい。今日の気分、調合するよ」



でっさんが扉を開けると、
奥まで続く棚が見えた。

外から見たときは、小さな店だった。

なのに、棚の先が見えない。

小瓶の中では、
青い霧や金色の粒が動いていた。

「孤独、五ミリ」
「期待、二滴」
「昨日の後悔。薄めてあります」

「後悔まで売ってるのか」

「捨てるには、惜しいのもあるからね」

棚の間から、まるが現れた。

メガネを直し、
でっさんの顔をのぞく。

「今日は、何を持ってきた?」



「何か作りたいんだ」

でっさんは、カウンターに座った。

「絵も、文章も。頭の中にある夢も、形にしたい」

「うん」

「でも、考えてるうちに怖くなる」

「何が?」

「作っても、誰にも届かなかったらって」

まるが空の器を置くと、
でっさんの胸から、灰色の煙がこぼれた。

慌てて押さえる。

「これ、俺の?」

「そう。ずっと抱えてたんだね」

煙の奥で、
小さな金色の粒が光っていた。

「こっちは?」

まるが器を傾けた。

「怖くても、作ってみたい気持ち」



「じゃあ、怖い方を抜いてくれよ」

まるは、灰色の煙を少しすくった。

煙の中に、でっさんが見えた。

作ったものを誰かに渡し、
返事を待っている。

その顔は、不安そうだった。

でも、相手をよく見ていた。

「全部抜く?」

でっさんは、しばらく眺めた。

「……少し残して」

まるは、うなずいた。

「安心」を七滴。
「緊張」を三滴。

そこへ、
「やれる気がする粉」をひとつまみ。

器の中で、灰色と金色が混ざった。

でっさんは、思わず身を乗り出した。

「変な色になると思った」

「混ぜてみるまで、わからないよ」



そのとき、奥の棚が鳴った。

まるが振り向く。

「おや。新しい気持ちが来た」

棚がゆっくり動き、
二つの瓶の間に、隙間ができた。

そこへ、小さな空瓶が現れる。

まるは、でっさんの器から一滴移した。

瓶の中に、
灰色を含んだ金色の光がともった。

「名前、つけてみる?」

「俺が?」

「君から生まれたものだから」

でっさんは、瓶を手に取った。

怖さもある。
期待もある。

どちらか一つでは、言い表せない。

「……怖いけど、楽しみ」

まるがラベルに書いた。

棚へ置くと、隣の瓶まで、ほのかに光った。

でっさんは、店の奥を見た。

この棚の一つひとつに、
誰かのこんな気持ちがあるのか。

もっと見てみたくなった。

*

まるは、調合した液をスプレーに移した。

「背中に、一プッシュ」

「これで、自信がつく?」

「さてね」

瓶にラベルを貼る。

効果:気のせい。

「なんだよ、それ」

でっさんが笑うと、
まるも少し笑った。

「今、どう?」

でっさんは、自分の胸に手を置いた。

まだ怖い。

でも、さっきより、
作りかけの続きを見たくなっていた。

「帰ったら、ちょっと書いてみたい」

「その気持ちも、今度持ってきて」

でっさんは瓶をポケットに入れた。

帰る前に、もう一度棚を見る。

「怖いけど、楽しみ」

自分の気持ちが、
この不思議な店の一部になっている。

なんだか、うれしかった。

扉が閉まると、まるは新しい瓶を眺めた。

そこへ、次の客の足音がした。

まるは空の器を用意する。

「いらっしゃい。今日は、どんな気分?」

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