シリーズ7|飛ぶ前の人― 飛べない時間にも居場所がある ―|第5話|高すぎる

カンジョー通帳

この記事の要約

  • かなしは飛び台への恐怖が本当なのか、自分で確かめることにした。
  • 誰もいない早朝、一人で飛び台の先端まで登った。
  • 高さを目の前にすると、飛ぶより先に「落ちる」という感覚が強く残った。
  • 飛ばずに降りたあと、まると静かな時間を過ごした。
  • 飛べない理由は想像ではなく、自分で確かめた体験になった。

🧭 判断ログ

判断:飛び台の先端まで登ったが、その日は飛ばずに降りることを選んだ。
場面:早朝、一人で飛び台へ登り、高さを確かめた場面。
やり方:誰もいない時間に飛び台へ登り、自分の目で高さを確かめたあと、飛ばずにベンチへ座った。
変化:飛べない理由が想像ではなく、「高い」という体験として自分の中にはっきり残った。


物語

前の日から、かなしは眠れなかった。

広場では「大丈夫」という言葉ばかりが増えていた。

笑顔も増えていた。

それなのに、自分だけが飛び台を見るたび足が止まる。

怖い。

その言葉を飲み込むたび、本当に怖いのか、それとも思い込みなのか分からなくなっていた。

だから、自分で確かめることにした。

まだ誰もいない朝。

かなしは一人で飛び台へ向かった。

飛び台の下には誰もいなかった。

風だけが高いところを通り抜けている。

かなしは階段へ手をかけた。

ゆっくり登り始める。

最初は何も感じなかった。

街が少しずつ遠くなる。

広場が小さく見える。

上へ行くほど風は強くなり、手すりを握る指へ力が入っていく。

飛び台の先端が近づく。

空が近い。

街は足元に広がっていた。

先端まで歩く。

風が足元を抜ける。

つま先を少しだけ前へ出した。

その瞬間だった。

体の奥が冷たくなる。

思っていたより高い。

もし今、手を離したら。

飛ぶより先に、

落ちる。

その感覚だけが、はっきり浮かんだ。

未来は見えない。

成功も見えない。

見えたのは高さだけだった。

飛びたい気持ちは残っている。

それでも体は動かなかった。

長い時間、風だけが吹いていた。

やがて、かなしは静かに向きを変えた。

何も決められないまま、階段を降り始める。

飛び台を降りると、そのまま歩いた。

途中にある古いベンチで足を止める。

腰を下ろす。

木の板が小さく軋んだ。

飛び台は、さっきより高く見えた。

しばらくすると、誰かが隣へ座った。

まるだった。

何も言わない。

飛べたかも聞かない。

励ましもしない。

二人とも飛び台を見なかった。

風が吹く。

木の葉が一枚、ベンチの前へ落ちる。

誰も拾わない。

そのまま風に揺れていた。

少し離れた場所で、でっさんが二人を見ていた。

声はかけなかった。

飛びたい気持ちはある。

でも飛べる気持ちには届いていない。

そのことだけは、

飛び台ではなく、

ベンチに座る後ろ姿から伝わってきた。

街は少しずつ目を覚ます。

人の声が聞こえ始める。

飛び台は今日も高いままだった。

※この文章は、あくまで私の主観による文章です。


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