でっさんは、スマホに並んだ黒猫の絵を見ていた。
ジャケットを着たばつ。 シャツを着たばつ。 笑っているばつ。 黙って睨んでいるばつ。
「どれも、少し違う」
まるが隣からのぞいた。
「少しずつ変えてたんだろ?」
「うん。でも、結局、似た顔になる」
画面の中では、黒猫が格好よく立っていた。 でっさんは、その絵を閉じた。
「格好いい黒猫を作りたいわけじゃないんだよな」
後ろから声がした。
「じゃあ、何を作ってんだ?」
ばつが、椅子の背にもたれていた。
でっさんは振り返った。
「お前。それが、まだ分からない」

でっさんは、最初に考えた設定を開いた。
否定。 自己嫌悪。 押さえ込んだ本音。
ばつは、自分の名前の下に並ぶ言葉を見た。
「ずいぶん詰めたな」
「最初は、俺を否定するやつだった」
「今は?」
「俺が言いたかったこととか、まだ言葉にできてないことに、切り込むやつ」
まるが聞いた。
「例えば?」
でっさんは、画面を見ながら考えた。
「やりたいって言ってるけど、本当は嫌なのかもしれない。そういうところを……」
「お前、それを俺に決めてほしいのか?」
ばつが言った。
でっさんの指が止まった。
「……決めてほしいときも、あるかもしれない」
「俺に言わせて、お前は黙ってるつもりか」
でっさんは、設定の文章を読み直した。
ばつに、何でも見抜ける役を渡しかけていた。

「本音を引き出すなら、まるとも似てるな」
でっさんが言った。
まるは、椅子を寄せた。
「俺なら、何が引っかかってるか聞くと思う」
ばつが口を挟んだ。
「聞かれても、こいつ、聞こえのいいこと言うぞ」
「いつもじゃないだろ」
でっさんが返す。
「いつもとは言ってねぇ」
でっさんは、ばつを見た。
腹が立つ。 でも、さっきまで考えていた返事は、少し言いにくくなった。
「……お前は、黙って済ませたいところで、黙ってくれないんだな」
ばつは返事をしなかった。 机の端に置かれた絵を、一枚引き寄せた。
「で、この服は何だ?」
「お前に似合うかと思って」
「俺より、服のほうが喋ってるな」

でっさんは、ChatGPTに修正を伝えた。
もっと鋭く。 もっと手描きに。 目を整えすぎない。 二重まぶたは要らない。
新しい絵が出来た。
「だいぶいい」
さらに変えてみた。
顔の線を増やした。 左右の目をずらした。 口元を歪ませた。
でっさんは、しばらく見てからスマホを置いた。
「これは、一緒にいたくない」
まるが絵を見た。
「かなり険しくなったね」
「ばつは、愛想がなくていい。でも、こいつが毎日隣にいたら嫌だ」
ばつが、絵の前へ顔を出した。
「お前が頼んだんだろ」
「そうだよ。だから困ってる」
でっさんは、もう一度スマホを持った。
今度は、身体の形から変えてみた。 床の影が起き上がったような、薄い猫になった。
「……これも違う」
ばつは、画面を見た。
「ずいぶん遠くまで行ったな」

机に、前の絵を並べ直した。
でっさんは、一枚の黒猫を選んだ。 不揃いな目。 筆で描いた顔の線。 黒いシャツの、擦れた✘。
「やっぱり、ここは好きなんだ」
まるが聞いた。
「どこが?」
「顔の線。綺麗に整ってないところ。それと、何か言ってきそうなところ」
ばつは、その絵を見ていた。
「笑ってるぞ」
「お前だって、笑うだろ」
「笑うな」
「だから、愛想をなくすために、ずっと怒った顔にするのも違うんだよな」
でっさんは、絵の横に書いた。
痛いことを言う。 ごまかしに口を挟む。 でも、一緒に話していたい。
少し迷って、もう一行足した。
ばつの言うことが、いつも正しいわけでもない。
「それも書くのか」
ばつが言った。
「書くよ」

でっさんは、新しい絵を頼む前に、短い会話を書いてみた。
「もっと個性的にしたい」
ばつが言う。
「何が嫌なんだよ」
「どこかで見たような顔になるのが嫌だ」
「じゃあ、そこを書けよ。格好よくとか、不細工にとか、その前に」
でっさんは、その言葉を画面に残した。
まるが、並んだ絵を指した。
「今日は、どれを残しておく?」
「この一枚。それと、今の会話」
ばつの顔は、まだ決まっていない。
でも、次に伝えたいことは、さっきより具体的になった。
自分の筆の線を残したい。 可愛く整えたくない。 鋭さは欲しい。 隣にいてほしい。
でっさんは、保存した絵をもう一度開いた。
ばつがのぞく。
「また見てんのか」
「まだ気になるから」
「じゃあ、まだ終わってねぇな」
でっさんは、その返事も書き足した。

ばつのキャラデザインのボツ案
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