何もしてないと思った

休みの日が、終わろうとしていた。

でっさんは、机の前で背中を丸めていた。
描きかけの絵が一枚。消しゴムのかすが、その横に散らばっている。

「今日も、何もしなかった」

訪ねてきたかなしが、絵をのぞいた。

「それ、今日描いたんだろ」

「描いたよ。でも……また一日、終わった」

でっさんは、窓の外を見た。

*

「明日も仕事に行って、帰って、飯を食って寝る。その次の日も同じだ」

「楽しいことはないの?」

「あるよ。笑うし、絵を描くのも楽しい」

でっさんは椅子にもたれた。

「でも、ずっとこのままだったらと思うと、怖いんだ」

かなしは、隣の椅子を引いた。

「変えたいんだね」

「変えたいよ。なのに、休みになると何もしたくなくなる。それで、また自分が嫌になる」

*

でっさんは、小さな箱を開けた。

「俺、どうしたらいい?」

箱から、声がした。

「焦らなくて大丈夫。少しずつ進んでいます」

でっさんは黙って聞いていたが、やがてふたを閉じた。

「何度も、この言葉が欲しくなるんだ。そのときは安心する。でも、しばらくすると、また聞いてる」

かなしは箱を見た。

「今日は、何を決めたかったの?」

でっさんの手が止まった。

「……何も。安心したかっただけかもしれない」

*

でっさんは、机の引き出しを開けた。

古い絵や、書きかけの話が入っていた。

「前から、いろいろやってるんだよ。でも、思ってたようにはなってない」

今日描いた絵を、その上に伏せた。

「俺、何やってんだろうな」

かなしが、その絵を表に戻した。

「これを描いてた」

「それだけじゃ嫌なんだよ」

「うん。でも、なかったことにするなよ」

でっさんは、かなしを見た。

「足りないんだろ。何もないんじゃなくて」

でっさんの目に、涙が浮かんだ。

「……そうだ。俺、もっとやりたいんだ」

*

でっさんは、まっさらな紙を出した。

『俺は、何を変えたい?』

「全部」と書きかけて、やめた。

今の暮らしにも、残したいものはあった。
今日描いた絵も、捨てたいわけではなかった。

しばらく考えて、一行書いた。

『自分の仕事を作りたい』

「作ることはやってきた。でも、どう仕事にするかは、決めてなかった」

その下に、もう一行書いた。

『今やっていることを、どうしたら仕事にできる?』

すぐには、答えが出なかった。

「また、考えることが増えたね」

かなしが言った。

「うん。でも、答えが出るまで何もしないでいたら、また時間だけ過ぎていく。それは嫌だ」

仕事にする方法は、まだわからない。
それも考えながら、今できることをやってみる。

でっさんは鉛筆に手を伸ばした。
けれど、その手が止まった。

「……今日は、もう疲れた」

かなしは、うなずいた。

「じゃあ、今日はここまでだね」

でっさんは、鉛筆を机に置いた。

動ける日は、やりながら考える。
本当に疲れた日は、休む。
そのたびに、自分を責めるのはやめよう。

元気が戻ったら、また続きをやる。

描きかけの紙は、明日も使えるように机に残した。

*

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