頭の中に、巨大な創作工場を建ててみた。

シリーズ4(ファンタジー)

最近、どうにも調子が出ない。

やりたいことがないわけじゃない。

むしろ、やってみたいことなら、いくらでも思いつく。

物語を書いてみたい。

自分のキャラクターを動かしてみたい。

誰も見たことのない世界を作ってみたい。

それなのに、いざ何かを始めようとすると、手が止まる。

「……何からやればいいんだろうな」

でっさんは、机の上に置かれた古いノートを開いた。

そこには、以前の自分が書き散らしたアイデアが、ぎっしりと残っていた。



ページをめくる。

奇妙な建物。

空を飛ぶ乗り物。

大きな歯車。

見たこともない街。

どれも、思いついたときは面白くて仕方がなかったものばかりだ。

「こんなことまで考えてたんだな」

でっさんは、思わず笑った。

しかし、すぐに手が止まった。

「……結局、ほとんど形にできなかったな」

ノートを閉じかけた、そのときだった。



ページの隙間から、小さな光がこぼれた。

「ん?」

よく見ると、描かれた歯車が動いている。

煙突から、細い煙が上がる。

建物の窓に、ぽつぽつと明かりがともった。

「……動いてる?」

でっさんは顔を近づけた。

すると、ノートの奥から、聞き覚えのない音がした。

カタン。

コトン。

カタカタカタ……。

まるで、遠くの工場が動き始めたような音だった。



次の瞬間。

ノートから光が飛び出し、机の上でくるくると回り始めた。

光は小さな歯車になり、煙突になり、壁になった。

そして、あっという間に一軒の工場ができあがった。

「お、おお……!」

小さな煙突から、虹色の煙が上がっている。

でっさんは、しばらく口を開けたまま眺めていた。

「これ、俺が考えたやつじゃないか」

工場の横には、まだ何も建っていない土地が広がっていた。



いつの間にか、机の向こう側に仲間たちがいた。

かんがは、工場の構造を調べている。

ばつは、腕を組んで眺めている。

ほしいは、何かを見つけたらしく、目を輝かせていた。

「こんなの、本当に作れるのか?」

でっさんがつぶやくと、ばつが鼻で笑った。

「そもそも、まだ何も作ってないだろ」

「……それはそうだけどさ」

そのとき、ほしいが古い宝箱を開けた。

中から飛び出したのは、金貨でも宝石でもなかった。

途中まで描いた絵。

書きかけの物語。

失敗した計画。

忘れていた夢。

そして、まだ名前すらついていないアイデア。

でっさんは、そのひとつを手に取った。

「これ、捨てたと思ってた」



ひとつのアイデアが、小さな工場に吸い込まれた。

すると、建物がぐんと大きくなった。

別のアイデアを入れると、工場の横に橋ができた。

失敗した計画を入れると、地下に巨大な機械室が現れた。

「失敗したものまで使えるのか?」

工場は答えなかった。

ただ、歯車を回し続けた。

やがて工場は、机の上には収まりきらないほど大きくなっていた。

でっさんは、いつの間にか雲の上に立っていた。

目の前には、想像したこともない巨大な建物がそびえている。

いや。

想像したことは、あったのかもしれない。

ただ、こんなふうに見たことがなかっただけだ。



工場の周りには、いくつもの道が伸びていた。

空へ続く線路。

雲の向こうに消える橋。

知らない建物へ続く階段。

その先に何があるのか、でっさんには分からなかった。

でも、ひとつだけ気になった。

「……あの向こう、どうなってるんだ?」

さっきまで机の前で動けなかったことが、嘘のようだった。

もちろん、目の前の工場が完成したわけではない。

壊れかけた歯車もある。

行き止まりの道もある。

まだ形になっていない場所のほうが、ずっと多い。

それなのに。

でっさんは、もう少し先を見てみたくなっていた。



「なあ」

でっさんは仲間たちを振り返った。

「これ、もっと大きくできると思うか?」

かんがは、少し考えた。

「大きくするなら、仕組みを考えないとね」

ばつは、工場の壁を指でたたいた。

「その前に、あそこ壊れそうだぞ」

ほしいは、遠くの空を指さしていた。

「それより、あっちにも何かある!」

まるは何も言わず、ノートの余白に一本の線を描いた。

その線の先には、まだ名前のない建物があった。

でっさんは、笑ってしまった。

「……全然まとまらないな」

でも、不思議と嫌ではなかった。



気がつくと、でっさんは元の机に戻っていた。

窓の外には、相変わらず夜の景色が広がっている。

机の上には、古いノート。

開いたページには、以前と同じ工場の絵が描かれていた。

さっきの出来事が夢だったのかどうかは、分からない。

でっさんは鉛筆を手に取った。

そして、工場の隣に、小さな建物を描き足した。

「……ここ、何にしようかな」

少し考えて、また線を引く。

その顔は、さっきよりも少しだけ楽しそうだった。

窓の外で、夜が静かに更けていった。

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