未来のカンジョー箱

シリーズ4(ファンタジー)

でっさんは、鉛筆を削っていた。

鉛筆削りは、自分の顔だった。

鉛筆を入れ、ハンドルを回す。

「なんで、俺の頭で削るんだよ」

そう言いながら、よく削れるので使っていた。

テレビから、聞き覚えのある音楽が流れてくる。

NHKの朝の体操だった。

画面の中で、でっさんが身体をひねっている。

「はい、考えすぎた肩を、ぐるっと回して」

でっさんも、つられて肩を回した。



コンビニへ行くと、チョコレートの棚に自分がいた。

一袋に、シールが一枚入っている。

欲しいのは、かなしだった。

三つ買った。

全部、でっさんだった。

「俺、こんなにいらないんだけど」

袋の裏には、絵描き歌の案内がある。

歌えば、自分の顔が描けるらしい。

家に帰って試してみると、途中で分からなくなった。

できあがった顔は、少し違った。

でも、妙に自分に似ていた。



学校から、卒業文集が届いた。

将来の夢の欄に、こんな言葉があった。

〈カンジョー箱の街で、お店を開きたい〉

別のページには、

〈カンジョー競技の選手になる〉

でっさんは、顔を上げた。

「競技?」

調べると、週末に大会があった。

会場へ行く。

何を競っているのか、最初はよく分からなかった。
なのに、隣の観客と一緒に立ち上がり、声を出していた。

帰りには、次の大会の日程を確かめていた。

自分でも、一度やってみたかった。



しばらく、カンジョー箱をやめていた時期もあった。

でっさんは、別の商売に夢中になった。

店を開いた。
思いつきで旅に出た。
全然違うものも作った。

もう戻らないかもしれないと思った。

ところが旅先で、店主が知らない言葉を口にした。

意味を聞くと、うまく言えない気持ちを、そのまま置いておくときに使うらしかった。

「もともとは、カンジョー箱から来た言葉なんだって」

でっさんは、飲み物を置いた。

そんな言葉は、作った覚えがなかった。

その夜、久しぶりに物語を書いた。



月へ行った。

売店に、でっさんの形をした菓子があった。

地球では見なかった味だった。

窓辺でひと口食べる。

「うまいな、俺」

隣で、たのしが吹き出した。

持ってきた世界地図を広げると、地球にいたころとは、ずいぶん変わっていた。

カンジョー箱の街が載っている。

さらに先の時代の地図には、大陸の名前まである。

でっさんは、指でなぞった。

昔、机で書いた名前が、海と海の間に印刷されていた。



数学の本にも、カンジョー箱が出てきた。

方程式になっていた。

でっさんは、説明を読んだ。
もう一度、読んだ。

本を閉じた。

「これは、分かる人に聞こう」

世界中で、自分の知らないカンジョー箱が増えている。

食べ物になり、職業になり、言葉になる。
誰かには毎朝の習慣で、誰かには一生かけて挑むものになる。

でっさん自身は、また別のことを始めたくなっていた。

そして、ときどき戻ってくる。

新しいページを開く。
今、自分が感じていることを書く。

たのしが、隣からのぞき込んだ。

「今度は、何になる?」

「分からん」

でっさんは、鉛筆を取った。

少し丸くなっていたので、自分の頭に差し込んだ。

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