でっさんは、毎朝まだ暗いうちに家を出た。
働いて、電車に揺られ、家へ帰る。
生きてはいける。
でも、ときどき胸の奥から声がした。
「このままで、終わるのか」
でっさんは、いらなの前に荷物を広げた。
安定した仕事。
起業したい気持ち。
若くない自分。
疲れた身体。
まだ何者にもなれていない焦り。
「さあ、必要なものと、いらないものに分けてくれ」
いらなは笑った。
けれど、何も仕分けなかった。
「お前が決めるんだよ」
でっさんは、まず「もう遅い」を右の袋へ入れた。
いらなは、それを鮮やかな布に変えて、自分の袋へ縫いつけた。
次に「立派な正社員にならなければならない」も、右へ置いた。
しかし、仕事そのものは捨てなかった。
それは生活を守るものとして、左側へ戻した。
「起業したい」は、迷わず左へ。
「疲れた」は、捨てようとした。
すると、いらなが中央のポケットへ戻した。
「そいつは、いらないものじゃない。今のお前を知らせに来たんだ」
最後に残ったのは、
「何者かになりたい」
という気持ちだった。
でっさんは、長いあいだ見つめた。
それが見栄なのか、本心なのか、まだ分からなかった。
だから中央のポケットへ入れた。
全部を決めなくても、胸の中は少し広くなった。
いらなは、大きな袋を背負い直して笑った。
でっさんも、少しだけ笑った。
人生を変える答えは、まだない。
ただ一つ、はっきりしたことがあった。
でっさんは疲れている。
それでも、本当はまだ、
自分の人生を終わらせたくなかった。



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