まだ売れてないけど、乾杯してみる

シリーズ4(ファンタジー)

「売れた日の話を作りたい」
でっさんが言うと、 ほしいが椅子を寄せた。
「いっぱい売れた日にしよう」
「まず、一冊でもいい」
机には、公開した物語と絵が並んでいた。
これをまとめて、 いつか商品にしてみたい。
でも、何をどう売るかは、まだ考え途中だった。
ばつが聞いた。
「売れてないのに、売れた話を作るのか?」
「うん。そのとき、俺が何をうれしいと思うのか、想像してみたい」
まるが、空いている紙を置いた。
「どんな場面から始めようか」
でっさんは、少し考えた。
「買ってくれた人に、お礼を言ってるところ」


でっさんは、スマホでChatGPTを開いた。
物語と絵をまとめた本を作ったこと。 その本が、初めて一冊売れたこと。
まだ実際には起きていないけれど、 その場面を物語にしてほしいと伝えた。
返ってきた話では、 でっさんが何度も販売画面を見ていた。
一冊、売れている。
「……本当に買った人がいる」
そのあと、 お礼の文章を何度も書き直していた。
でっさんは、読んで笑った。
「これは、やりそうだな」
ほしいが、続きをのぞく。
「もっと喜べばいいのに」
「喜んでるよ。たぶん、信じられなくて何回も見る」
まるが聞いた。
「何が、一番うれしそう?」
でっさんは、画面を読み返した。
「俺が作ったものを、欲しいと思った人がいたこと」


ほしいは、その先も見たがった。
「次は十冊。もっと売れたら、仲間も増やそう」
でっさんにも、見てみたい景色があった。
誰かと作品を作る。 作業の途中で言い合う。 完成したら、飯を食いに行く。
知らない場所へ行って、 買ってくれた人と話す。
「その話も、作ってみたいな」
かんがが、紙を引き寄せた。
「私は、作る側から考えたい。十冊売れても、毎回寝る時間がなくなるなら続かない」
ばつが言った。
「買う側からも見てみろよ。知らない人の本を、何で買うんだ?」
でっさんは、スマホに伝えた。
「作る俺、買う人、一緒に作る仲間。それぞれの立場で、この本をどう見るか考えて」
同じ本について、 違う意見が返ってきた。
作る側は、全部入れたい。
買う側は、 どんな話が読めるのか、先に知りたい。
一緒に作る側は、 何を頼まれるのか、はっきりしてほしい。
でっさんは、手を止めた。
「俺の頭の中だけじゃ、分からなかったな」
まるが、画面を指した。
「実際の人の返事ではないけど、確かめたいことは増えたね」


「じゃあ、話してみよう」
でっさんは、二脚の椅子を向かい合わせた。
ほしいが、すぐに座る。
ばつは、背もたれに寄りかかった。
「ほしいは作る側。ばつは、まだ買う気がない人」
「そのままでいいな」
ばつが言った。
ほしいが、一冊の見本を差し出す。
「物語も絵もいっぱい入ってる」
「どんな物語だ?」
「カンジョー箱の物語」
「それを知らないから、聞いてる」
ほしいは、表紙を見た。
少し考えて、言い直す。
「作りたいのに、考えすぎて始められない男の話。こいつらと話しながら、一つずつ作品を作っていく」
ばつが、本を開いた。
「それなら、少し分かる」
でっさんは、やり取りをメモした。
「今の説明、最初にあった方がいいな」
ほしいが、別のページを見せる。
「ここの絵も見て」
「絵は好きだ。でも、文字が小さい」
「そこまで言うのか」
「買う前に見る役だろ」
でっさんは、二人の間から本をのぞいた。
直したいところが、 具体的に見えてきた。


話しているうちに、 机が紙で埋まっていた。
十冊売れた話。 仲間と作った話。 買う人から見た意見。
いらなが、一枚ずつ拾う。
「今日、使うのはどれ?」
でっさんは、 最初の一冊が売れた話を手に取った。
「これ。それと、本の説明」
ほしいが、十冊の紙を押さえた。
「こっちも残して」
「残すよ。今日は、横に置いておくね」
いらなが机を空けると、 まるが飲み物を持ってきた。
でっさんは、カップを持った。
「一冊売れたら、たぶん、こんなふうに座ってるんだろうな」
「俺は、もっと騒ぐ」
ほしいが言った。
「俺は、次の本も読む」
ばつが言う。
でっさんは、ばつを見た。
「買ってくれるのか?」
「今は、そういう場面を想像してるんだろ」
でっさんは笑って、カップを少し上げた。
みんなのカップが、机の中央で触れた。
まだ一冊も売っていない。
それでも、その日のうれしさを、 少し想像できた。


飲み終えると、 かんがが見本の本を開いた。
「最初に読める物語を、一つ選ぼう」
ほしいは、入れたい作品を三つ並べた。
ばつは、さっきの説明を読み直している。
いらなが、今日使わない紙をまとめた。
でっさんは、ChatGPTに伝えた。
「さっきの対談を使って、この本の紹介文を作って」
返ってきた文章を読む。
「ここ、まだ出来てないことまで書いてるな」
その部分は、直してもらった。
未来の話では、 もっと大きな本になっていた。
今、机にあるのは、 数枚の見本だった。
でっさんは、そのうちの一枚を選んだ。
「まず、これを最後まで読める形にしよう」
まるが、隣へ座る。
ばつが、文字の小さかったページを開いた。
ほしいは、表紙に使いたい絵を持ってきた。
でっさんは、もう一度スマホを開いた。
売れた日の話は、残してある。
その日を想像したら、 今の見本を、もう少し作ってみたくなっていた。

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