この記事の要約
- 夜の部屋で、履歴書の志望動機を書いていた。
- 正しい言葉は並ぶのに、身体だけが重くなっていった。
- 履歴書の文章に、自分の感覚が入っていないことへ気づいた。
- やりたい訳ではないまま進もうとしていた。
- 画面は閉じたが、保存だけは消せなかった。
物語
夜だった。
机の上には、開いたままの履歴書が置かれていた。
白い画面。
入力欄。
志望動機。
わたしは、キーボードへ指を置いたまま止まっていた。
静かだった。
部屋の中には、パソコンのファンの音だけが小さく響いている。
何を書けばいいのかは分かっていた。
安定したい。
成長したい。
経験を活かしたい。
社会に役立ちたい。
転職サイトにも、面接動画にも、何回も出てきた言葉だった。
だから、文章は作れた。
それっぽい形にも出来た。
実際、変ではなかった。
ちゃんとしていた。
でも。
書けば書くほど、身体が重くなっていった。
呼吸も浅くなる。
視線が落ちる。
画面の白さだけが、妙に眩しかった。
わたしは、一回椅子へ深くもたれた。
疲れていた。
何時間も悩んでいる訳じゃなかった。
それなのに、もう頭が熱かった。
その時だった。
かんがが、机の横へ立っていた。
静かな顔だった。
感情的ではない。
ただ、じっと画面を見ていた。
わたしは、何となく言う。
「……別に間違ってないよな」
かんがは、すぐには答えなかった。
代わりに、履歴書の文章を見ていた。
安定。
成長。
社会貢献。
どれも正しい言葉だった。
でも。
どこにも、わたしがいなかった。
かんがが、小さく言う。
「それ、本当に書きたいことか?」
その瞬間だった。
胸の奥が、少し冷える。
視線が止まる。
言葉が入ってこなくなる。
画面には、ちゃんとした文章が並んでいた。
でも。
書いている顔が死んでいた。
そこで初めて気づく。
「これ、やりたい訳じゃないな」
静かだった。
その言葉を言った瞬間、急に全部が崩れそうになった。
じゃあ何がやりたいのか。
どこへ行きたいのか。
どう生きたいのか。
何も分からない。
でも。
少なくとも、この文章のまま進もうとしている時の身体は、ずっと苦しかった。
ばつが、後ろで笑う。
「ほらな」
「結局、お前よく分かってねぇんだよ」
胸の奥が重くなる。
でも、否定も出来なかった。
わたしは、履歴書の画面を閉じる。
保存しますか、と表示が出る。
少し迷う。
そのあと、保存だけ押した。
消すことも出来なかった。
机の上には、静かな空気だけが残っていた。
※この文章は、あくまで私の主観による文章です。
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